ヒト血清点眼液は人工涙液やヒアルロン酸点眼液などの点眼では効果の認められない
重症ドライアイに用いられることがあり、抗生剤とともに無菌操作により自己血清を用いて製剤化されていますが、
角膜上皮びらんに対する細菌感染の可能性は否定できません。
当院とあけお眼科研究所では、市販されているヒト血清(Biowest Co. Nuaillé, France)を用いて、
細胞壁多糖類に対する加水分解による溶菌作用を有する酵素であるリゾチーム遺伝子(Lyz)について
微量分光光度計とリアルタイムPCRを用いて遺伝子発現の定量を行っています。
ヒトリゾチームcDNA(相補的デオキシリボ核酸)の核酸塩基配列からコンピューターによりPrimer設計をします。
ヒトLyz cDNA (E.Coli中のプラスミドLyz cDNA:Horizon Discovery Ltd. Tokyo, Japan)のコピー数
4 倍希釈:2.5X107 16 倍希釈: 6.25X106 256 倍希釈: 3.906X105 1,024 倍希釈: 9.765X104
Lyz cDNA発現増幅には希釈倍率に従いCycleを重ねるためThresholdにおけるCq値も多くなっています。
Tm値とはPrimerと標的DNAが50%の割合で二本鎖DNAを形成する温度のことで、
Primerの塩基配列によって決まり、特異性に関係するとされています。
ヒト血清点眼 (ヒト血清4 倍希釈にレボフロキサシン点眼液添加)
Cq値は29.703, 30.121, 30.134でした。
検量線を用いてCq値からLyz cDNAのコピー数を計算しました。
原液、4倍希釈、ヒト血清点眼液の間で有意な差は認めませんでした。
遺伝子発現とは、DNAの遺伝情報からRNAポリメラーゼによりタンパク質やRNAが作られることであって、
ヒトリゾチーム遺伝子(Lyz)発現の増減が即座に溶菌作用に結びつくわけではありませんが、
遺伝子は生体を構成するタンパク質やRNAの根源であることは明らかであります。
今後、室温、低温、低湿度、高湿度でのヒト血清点眼におけるLyz cDNA発現量の時間経過による変化、
さらにコンタクトレンズとの関連についても研究を進めたいと考えています。
1.明尾潔、明尾庸子、明尾慶一郎、飛田恵子、加藤帝子、大森美香: ヒト血清点眼におけるリゾチーム遺伝子発現の定量. 臨床眼科77(5):655-661 2023
2.明尾潔、明尾庸子、明尾慶一郎、飛田恵子、加藤帝子、大森美香:ソフトコンタクトレンズにおける周辺部厚の位相差顕微鏡による計測.臨床眼科78(3):372-378 2024
3.明尾潔、明尾庸子、明尾慶一郎、飛田恵子、加藤帝子、大森美香: 37°C度におけるヒト血清点眼におけるリゾチーム遺伝子発現量の経時的変化.臨床眼科79(3):375-381 2025
1. 明尾潔、明尾庸子、明尾慶一郎、飛田恵子、加藤帝子、大森美香:ヒト血清点眼におけるリゾチーム遺伝子発現の定量 第76回日本臨床眼科学会 東京 2022年 10月.
2. 明尾潔、明尾庸子、明尾慶一郎、飛田恵子、加藤帝子、大森美香:ソフトコンタクトレンズにおける周辺部厚の位相差顕微鏡による計測 第77回日本臨床眼科学会 東京 2023年 10月
3. 明尾潔、明尾庸子、明尾慶一郎、飛田恵子、加藤帝子、大森美香: 摂氏37度におけるヒト血清点眼におけるリゾチーム遺伝子発現量の経時的変化.第78回日本臨床眼科学会 京都 2024年 11月